【書道(毛筆・習字)初心者向け】経験者が語る「書体と漢字の歴史」2/2章

皆さんこんにちは!おこげです。
たまには毛筆を書いていますか?
前回に引き続き、これから書道を始めようという方、興味がある方又は、初心者の方向けに「書体と漢字」の成り立ちに関する内容を書いていきます。 前回(黄帝時代~戦国時代)と併せてご覧いただけると幸いです。

篆書体の例:(日)

【篆書体】
紀元前221年になると「嬴政(えいせい)」という人物が、約500年程の長きに亘った戦国時代に終止符を打ち、中国大陸の統一を果たし、「秦(しん)」という国を建国します。その後自らを「皇帝」と名乗りました。史上初めての「皇帝」なので「始皇帝」とも呼ばれています。「始皇帝」というと「万里の長城」も有名ですが、中国大陸を統一した証としてさまざまなものを統一した事でも有名ですね。文字もその対象に含まれていて、「小篆(しょうてん)」を国内の公的文字として使用することを定めました。「小篆」は周の終わり頃、「史籀(しちゅう)」という人物によって工夫された「大篆(だいてん)」を簡略化した字体と言われています。「篆書体」の特徴は、文字全体が縦長であり、部首(偏と旁)が明確にされ、起筆と終筆が丸くなっています。(現在の「楷書」のような刀の切先の様に鋭い形ではありません。)また、「はね」や「はらい」はなく直線か曲線で「とめ」を行うだけとなっており、それぞれの線に太さの変化はありませんので「篆書体」を書く場合は主に直筆(筆を立てて書く)が用いられます。 横線には「U」のような曲線が、縦線には「S」(又はクランク状)のように折り曲げた長い線が有ります。因みに、篆書体は現在でもハンコ(印鑑)の字としても用いられています。理由としては「篆書体」が総じて末広がりで、線が長い事から縁起が良いという事が考えられます。書道では「篆刻(てんこく)」と言って「雅印(がいん)」または「落款」を作成する場合もあり、刻む書体は「金文、篆書等」の書体が主に用いられています。因みに落款を作る場合は刻む書体の時代を合わせる事等の基本ルールが存在します。

隷書体の例:(日)

【隷書体】
さて、「秦」から数十年後、[項羽と劉邦の争い」が勃発しますが「垓下の戦い」を経て遂に劉邦が中国大陸を統一し[漢]を建国します。垓下の戦いでは有名な「四面楚歌(しめんそか)」という故事成語が生まれていますね。そして「漢」といえば皆さんご存じの方も多いと思いますが、三国志の舞台となった時代でも有ります。「漢」は魏・呉・蜀の三国鼎立となるまでの間しばらく存続するわけですが、「紀元前を前漢・紀元後を後漢」という風に一般的に呼ばれていますね。「漢」の時代では「隷書」が日常的に使われていました。背景としては常に特殊な書き方をする「篆書」では早く書くことができないという理由があったものと推測されます。

波傑

「隷書体」自体は「秦」の頃からあったもので特徴は、 字全体が横長になっており、「篆書」にあった不必要に長い線や、U字S字の曲線を無くして全体を整えたものです。書き始めが丸いのは一緒ですが、「波傑(はたく)」という独特の曲線とはらいを組み合わせた技法があり、「漢」の時代に入って更に実用化され「八分(はっぷん)」という書体ができたとされています。これが現在私たちが目にする「隷書体」となります。ですので、隷書体は時代(秦~漢)によって書き方や字形が異なるものが存在しています。

【能書家の登場】
後漢の頃になると能書家(書の達人)と言われる方々が多数現れ、現在も使われているような書体がどんどん編み出されます。因みにこの時代の能書家には三国志(歴史シュミレーションゲーム)にも曹操配下の武将として登場する「鐘繇(しょうよう)」という方も含まれます。鐘繇は、政治力・智謀に長けており皇帝陛下(当時の献帝)に仕えていた時は、悪臣達から皇帝陛下を助ける為にその頭脳を駆使して奔走し、曹操に仕えた時は、内政の他軍事面でも活躍をした人物としては大変有名だと思います。その他にも書家としての一面を持ち合わせていたという事については、三国志好きの方でもあまりご存じないでのではないでしょうか?(私だけかな。)「鐘繇」の筆法はかなり独特なものだったとも伝えられていますが、後の「晋」時代に登場する「書聖」と謳われた「王義之(おうぎし)」も若かりし頃、当時の師匠から「鐘繇」の筆法を学んでいたそうです。こういった能書家の方々の活躍もあり、現在でも使われている書体がこの時代にどんどん編み出されることとなります。

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草書体の例:(日)

【草書体】
「隷書体」ではまだまだ早く書けないということで、点画を極端に省いた「章草(しょうそう)」という字体が案出され、それを基に現在でも使用されている「草書体」が編み出されたと言われています。「草書体」の特徴は一つの文字が一筆書きで書けるという事です。つまり、偏から旁などが1本の線で結ばれているわけです。なので早く書く事は出来ますが、効率を上げた分だけ(崩したとも)似た形の偏や旁が沢山ありますので、読み手側の技量(力量・レベル)が高くないと読み間違えを起こしやすいというデメリットもあります。

楷書体の例:(日)

【楷書体】
次に「楷書体」が編み出されました。「楷書体」は全体的に横長の「隷書」を正方形に納めるように全体の形を整え、「波傑」部の長さを短くしてバランスを整え、「とめ・はね・はらい」を加える事で端正かつ荘厳な書体を作りだしました。一説によるとこの「楷書体」は皇帝陛下を含む限られた方々に対してのみ使用されていたともされているようです。それ以外のところでも「楷書体」に近い文字が使用されていたそうですが、それは「楷書体」ではなく「書写体」と呼ばれる少々異なった書体が使用されていたとも言われています。「書写体」は現在では公に使用されておらず、見かける事は少なくなりました。この書体は古い教本、神社やお寺等で「極まれ」に見る事ができると思います。因みに「写経」(般若心経を写す)を書く際に使用している書体「写経体」も「書写体の一部」となります。「書写体」をめぐっては、見たことも無い漢字に対してしばしば「誤字なのでは?」という論争が起こる事も有るようです。

行書体の例:(日)

【行書体】
最後に「行書体」が編み出されました。かしこまった体裁の「楷書体」に自由な変化を加える事で、「楷書体」の様に読みやすく、点画を省略することで「草書体」の様に書き易い書体が作り出されました。この書体の特徴は、「楷書体」に比べて点画が丸みを帯びた流動的な線になり、続けて書いたり、点画を省いたり、止め・はね・はらいの部分を柔軟に変化さる事ができるものです。つまり、「行書体」は他の書体の様に「こうしなければいけない!」という様な厳格なルールは無いに等しく、その場や環境(心情的なものを含め)や他の文字との関係性等から多種多様な変化が生まれる「芸術性」を持った書体でもあります。芸術性の観点としては変化の他に、書体として「楷書体」に近いものと「草書体」に近いものが存在します。ですので、どちらの書体にも状況に合わせて融合することができる、とても優れた書体だと個人的には思います。芸術書道において「行書体」が用いられることが多いのはこういった理由からとも言えますね。

様々な人達の手によって改良が重ねられ、芸術的境地にまで達したものが仏教と共に日本に伝来したといわれている時代から、現在に至る過程で我が国独自の変化を遂げ、私たちが日常で使っている訳ですね。

アイキャッチ【書道(毛筆・習字)初心者向け】経験者が語る「書体と漢字の歴史」1/2章

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このブログを書いているおこげです。
2児の父(育児見習い)でサラリーマン。
仕事に子育てに日々打ちのめされながらも奮闘しています。
書道を趣味として嗜み、かれこれ20年近く経ちます。その他、弓道、古武術、お茶(かじり程度)も嗜みます。
和のものが大好きで、たまに神社・仏閣も巡ります。
ブログを綴りながら、自分自身の書道の腕もレベルUPできるように頑張っていきますので、宜しくお願いします。
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