【毛筆】文房四宝「硯・前編」

こんにちは!おこげです。
皆さん、たまには毛筆を書いていますか?
今回は文房四宝の中から【硯】について書いていきます。
【1.硯とは】【2.各部の名称】【3.硯の種類と特徴】【4.選び方】について一般的な内容を書いていきますが長くなってしまうので、前編と後編に分けて書いていきます。是非、参考にしていただければ幸いです。

【 1.硯とは 】
硯は、墨をおろす (磨墨「まぼく」する) 為の道具です。 石以外の材質(翡翠・金・銀・陶器)で作られているものもありますが、墨のおり具合が一番良いとされている材質が 石であることから、現在ではほとんどのものが石(特に粘板岩)を削って作られています。因みに今私たちが使っている「硯」という漢字も大昔は「姸/ケン(研ぎ磨くと同時に磨りおろすの意)」という文字が使われていたそうです。その材質の特性上、文房四宝の中では一番長寿命でもある為、縁起の良いものとして、贈答品としても用いられる事もある様です。道具としても贈答品としても大変重宝されてきた理由としては外観の美しさ、「鑑賞用」としても価値が高い事にも有ります。それは、産地(石の質)によってそれぞれに、色(黒・緑・紫・赤等)の違いや、模様(縞・円・星)の違いがあり、大きさや形も様々で、自然の名残が有ったり、緻密な彫刻が施されているものも有り、道具としての実用性・鑑賞用双方の機能を持ち合わせたものもあります。それらの条件によっては、文房四宝の中ではとても高価な値がつく道具だと思います。

【2. 形状と各部の名称】
硯の形状ですが、一般的に四角形だったり楕円形(おにぎりに近い形)をしていて、稀に円形でお皿の様な形をしたものや、植物や鐘の様な形のものも見られます。部位では大まかに言うと「①墨を磨るところ」と、「②磨った墨を貯めるところ」の2つになります。「1. 硯全景」に示すような、①と②がある私たちが現在使用している形になった(近づいた)のは、宋時代頃とされており、それまでは①があるのみの板状のものや、おわんやお皿のような形をしていたようです。材質も陶器(お皿などの再利用含む)や石または石の粉を練って固めて焼いたものなど様々です。その頃の墨はというと、炭の粉(煤又は墨)と水を混ぜ込んだものをすり潰して使用していたイメージですね。その後、墨の改良・開発に伴って少しずつ硯も形状が変化していき、現在の形状に辿り着いたようです。日本では仏教が栄えた奈良時代の頃ですが、遺跡から発掘された硯は、現在私たちが使用している硯と同じような形状の石製硯が出土してもいるそうです。当時からこの形が使いやすかったのでしょうね。

各部の名称について「2. 硯各部の名称」に示します。硯は磨墨機能が最も重要になります。一般的には墨を磨るところを「硯の丘・墨道(堂)」といい、表面(硯面ともいいます)を触るとザラザラしています。このザラザラは墨を磨るためにとても重要なもので「鋒鋩(ほうぼう)」といいます。「鋒鋩」に光を当てた拡大画像を示します。白く反射している小さい粒々が鋒鋩です。鋒鋩とは、肉眼では見えない程度の細かい粒子(金属または析出物ともいわれる)で、凸凹が無数にあります。これがヤスリの役目をして、固形の墨を削る事で墨が下ります。硯面を光源に当てて見ると鋒鋩が反射してキラキラと輝きます。どんな鋒鋩をしているかが重要です。また、墨を貯めるところを「硯の池(海)・墨池」といいます。ここは水を貯めておくところですから、保水機能が重要になりますね。主に石質が保水性能に影響してくるようですがこれも肉眼では判別しようがありません。これらのポイントについては後編で書いていきましょう。

各部の名称
硯各部の名称
鋒鋩(拡大)
鋒鋩(拡大)
光を反射している粒々

【3. 硯の種類と特徴】
硯は大きく分けると中国硯(唐硯ともいう)と、日本硯(和硯ともいう)に大別されます。中国硯は良い硯として昔から有名です。書の文化発祥と発展に伴って付随する道具も多々研究され、改良されてきました。歴代の皇帝の中には書を好み嗜む方々もおられました。そういった背景が「良硯」を作りだしていったのでしょう。まずは唐硯について書いていきましょう。

端渓02
端渓硯
水をはった状態
端渓01.jpg
端渓硯
通常の状態

「中国硯(唐硯)」
1.端渓硯(たんけいけん)
現在の中国広東省肇慶市斧柯山を中心とした一帯で産出される石から作られた硯。「端渓硯」 の名前の由来は所説あり、斧柯山の山間を流れる渓流を「端渓または、その水を端渓水」とも呼んでいた事から、「端渓硯」という名が付いたそうです。唐時代に初めて採掘し硯として使用されたそうですが、現在では資源の枯渇している為、昔に使っていた洞坑では採掘されていないと聞いています。採掘するための洞坑は上岩、中岩、下岩(山の中、つまり陸上)、水岩(常に水に浸かっている場所・水厳)多数残っており、中でも良いとされているのが大西洞(水厳)から採掘されたものが美しく、石質も良いとされています。水厳は常に水に浸かっている為、採掘の為の工数・つまりは経費が莫大なものとなるそうです。また採掘の時期も限られるため、あまり出回っていないのではないでしょうか。かなり高価なものと推測します。採掘された場所が異なるだけで石の色や質がそれぞれ異なるので、人によっては好みが分かれるのではないでしょうか?それ以外の順番で言うと一般的には①「老坑( 水巌とも)」、②「坑子巌 」、③「麻子坑」であり、これら3つは「端渓三大名坑」とされています。近年では「沙捕坑区」で三大名硯に似た硯石が産出した為、三大名坑に新を冠した「新老坑・新坑子巌・新麻子坑」等とした硯が流通しているようです。その為、識別として三大名硯等を「端渓硯」、 それ以外 から産出した物を「端石硯」、両方をひっくるめて「端硯」とする呼び方も検討されているとか。
この硯の特徴は、石紋(眼・青花・蕉葉白・金線など)、色(羊羹色・灰蒼色・黒紫等)です。石紋については硯面に水をはることで良く見えるようになります。 現物以外での鑑定(写真での判別)はほぼ不可能と思います。 現在、市場には沢山の「端渓硯」が出回っているので、どの坑から産出したものなのか石の特徴で判別するしか無い為、専門で勉強している人以外は分からないと思います。しかしながらどれも見た目が良く、磨墨性能は優れているので入手できるなら、買っても損はない一品だと思います。
端渓硯は 鋒鋩がむらなく緻密に並んでいる為発墨に優れており、外観上(鑑賞用)、性能上とても優れた逸品です。 石質が滑らかで、しなやかで、美しく、柔らかい為、硯としては女性に例えられるそうです。硯の女王様と呼ばれるに相応しいと思います。
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歙州硯
歙州硯
羅紋・金星・彫刻有り

2.歙州硯(きゅうじゅうけん)
※ここでは「州」(じゅう)で統一します。
安徽省黄山市歙県(昔の歙州)にある、竜尾山・羅紋山などのかなり広い地域か採掘された石で作られた硯。名前の由来は採掘された場所が「 歙州 」という地名であったことから、因みに私たちは「きゅうじゅうけん」と呼んでいますが、 「歙」は「ショウ」とも読む事から、一説によると 「しょうけん」と呼ばれていたものが日本に誤り伝えられ「きゅうじゅうけん」と呼ばれるようになったとか。 歙州硯は唐の時代から有名でしたが、北宋時代には良材は無くなったと伝えられています。この硯の特徴は、石色は鼠色(灰色)でうっすら艶があり、夜空の銀河に流れるが如く金星、銀星が所々に散りばめられたかのようにあり、薄絹を重ねた時に現れる波のような紋様(羅紋ともいう)がある、非常に特徴的な硯です。因みにこの金星・銀星が墨道(墨をするところ)に沢山ある場合は磨墨性能に良くないとも聞きます。端渓硯と違って良材は見れば分かると思います。また歙州硯は石の密度が高く、比重も重い為叩くと金属的な高い音が出ます。「羅紋硯(らもんけん)」というものが有りますが、これは歙州硯と同じ地域から採掘された同じ材質の石ではあるものの、肌が粗く青黒い色をしたもので銘硯ではなく「実用硯」として有名です。私も羅紋硯使った事がありますが、磨墨・発墨ともに良い硯でした。少しそれましたが、 歙州硯 は男性的で王者の風格が有る為、硯の王様と呼ぶにふさわしいと思います。端渓硯と双璧をなす名硯です。この硯も写真のみで判別または鑑定をすることは難しいでしょう。

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3. 洮河緑石硯(とうがりょくせきけん)
甘粛省の南部を流れる洮河(とうが)の河中から採れた石で、古くから有名です。端渓・ 歙州 と共に三絶として珍重されたそうです。性能としては端渓硯より良いとも言われているようです。しかし 河の氾濫によって採石場所がわからなくなってしまった事、採石期間も短かった事から市場に流通している物は極わずかであるため、「幻の硯」と言われています。なので市場で見る事は極々稀で「洮河緑石硯」ではなく「緑端渓」だったという事もあるようです。 この硯の特徴は色で、緑石は淡青色・深緑色(緑系)で多くは蘭亭の図が刻まれているようです。また、実用面では墨を磨り終わった後、水をかけるだけで硯面が綺麗になるそうです。触らなくて良いのがすごいですね。 日本刀の伝説等に良くある相手を斬った後、刀に付着した血が勝手に露と共に流れるという イメージでしょうか。是非一度使ってみたいものですね。

4.澄泥硯(ちょうでいけん)
山西省(その他所説あり)等で作られていて、この硯は読んで字の如く「濾した泥を固めて焼成した」物つまり、レンガの様な焼き物と伝えられてきたようです。(私の教本にもそのように書いてありました。)また、自然石( 蘇州霊巌山から採れた)から作られたというものも存在しており 、人工物と自然物の両方が存在しているという珍しい硯です。このように2種類の澄泥硯が存在していますが、色々な文献を読んでみると「その昔、使われていた澄泥硯は人口物(焼き物)」とされていて、日本でもそのように認識していましたが年月を経て、科学の進歩による解析によって、今まで「焼き物」と言われてきた澄泥硯が「自然石」であることが判明したようです。また、中国の古い文献に澄泥硯の製法が載っていたそうですが、この作成方法では澄泥硯の製造を再現できないことも有って「自然石」であるという確信にも近づいていた様です。
 自然石の特徴は、緑・黄・紅・白・紫・青・朱の7色程色が有り、それぞれに固有の呼び名がある様です。石質が粗い(素焼きの様な感じ?)為か、鋒鋩は優れており、特に「唐墨(からすみ)」との相性は良い様です。作り物と思われた理由はそこにもあったのでしょうね。
 焼き物の澄泥硯は、二酸化ケイ素を多く含む泥を採取して濾過を何回も繰り返し、化合物を練り合わせたうえ上、木型に入れて叩いて密度を上げ、削りだしを行い、窯で焼いて焼成させるという製造方法の様です。焼き加減で色も変わってくるのでしょうね。自然石と同様に鋒鋩は優れ、唐墨との相性は良い様です。
人工物、自然石、所説有りますが、端渓硯、歙州硯、洮河緑石硯、澄泥硯これらは「4大銘硯」と呼ばれて昔から愛されてきました。
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唐硯はここまでです。後編は和硯から書いていきましょう。

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このブログを書いているおこげです。
2児の父(育児見習い)でサラリーマン。
仕事に子育てに日々打ちのめされながらも奮闘しています。
書道を趣味として嗜み、かれこれ20年近く経ちます。その他、弓道、古武術、お茶(かじり程度)も嗜みます。
和のものが大好きで、たまに神社・仏閣も巡ります。
ブログを綴りながら、自分自身の書道の腕もレベルUPできるように頑張っていきますので、宜しくお願いします。
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