【毛筆】文房四宝「硯・後編」

こんにちは!おこげです。
 前編では唐硯の代表的な4つの硯についてお話しをしました。後編では、国産硯(和硯)についてお話ししていきたいと思います。唐硯は性能・外観ともにずば抜けて有名ですが、和硯にも良いものが沢山あります。現在も流通している硯の中からいくつかご紹介した上で、硯の選び方に進みましょう。

雨畑硯
雨畑硯(雨畑真石硯)

【国産硯(和硯)】
1.雨畑硯 (あめはた・あまはたすずり)※雨畑真石硯とも
 山梨県南巨摩郡早川町雨畑付近で採掘された「雨畑石」から作られている硯で、 石紋としては水流・雨滴紋があります。雨畑石は希少な原石であることから「雨畑真石」とも称され、その石を使って作られた正真正銘の雨畑硯を「雨畑真石硯」と呼んで識別化しており、和硯の中では良質(鋒鋩が良い)かつ、美しい色調の光沢( 青み・紫色・黒色をおびた三種類) を持っている事から、「和の端渓」とも称されるようです。その起源は所説有り、鎌倉時代頃に日蓮上人のお弟子さん(日朗)が開山の為に訪れた際、雨畑川(早川支流)で蒼黒色の石を発見し、この石で硯を作ったところ良質だった事から始まったというもの。もう一つは、江戸時代の初め頃に雨宮孫右衛門さんという方が身延山へ参拝する為に訪れた際、早川で黒色の石を発見し、これを硯にした事から始まったというものです。和硯の中では良質という事もあり、当地区内(早川町雨畑)に一時期は多数の生産者(硯職人)がいたようですが、現在では1軒(硯匠庵さん)となり、こちらで制作された硯は「雨畑真石硯」と呼ばれているようです(呼称の違いは定かではありません)。また、雨畑地区以外では富士川町鰍沢にも雨畑硯の生産者が数軒あり、その内の1軒に起源とされる雨宮孫右衛門さんのご子孫が硯匠として腕を振るっている様です。因みに、雨畑硯は良質な硯として有名だった事から、一時期は偽物(玄昌石で作ったもの等)も存在する様です。雨畑石(雨畑真石)は和硯の中では発墨が良い(鋒鋩が良い)ので、墨を磨れば本物かどうかは分かりそうですね。私も実際に使っていますが、墨が良くおりますし墨色も良好です。

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2.赤間硯 (あかますずり)
 山口県宇部市の北部 から採掘された「赤間石」から作られている硯で、色は赤紫又は赤茶色で端渓硯(特に宋坑?)に似ており、ものによっては一見すると色が濃い端渓硯に見えるかも知れません。 赤間石は硯に適した石材として古くから有名で、その起源は鎌倉時代まで遡ります。その頃製造された硯が源頼朝公の名で鶴岡八幡宮に奉納されたという記録もあるので、国産硯としてはかなり古い歴史の持ち主のようです。赤間硯の名前の由来は、現在の下関市にあたる赤間関で製造が開始されたこととされていますし、赤間石から作られた事によるものとも考えられます。 赤間石は彫刻がしやすいため彫刻硯や蓋付き硯等、美術品の一面を持った硯を見かけます。赤間硯も雨畑硯と並んで質の良い硯として高く評価されてきたものですが、職人自身が採石を行い(露天掘りではなく坑内に入って採掘する)、一つ一つ石を見定めることから始まる為、完成までに手間が掛かる事や、継承者不足によって生産量が減っている事が起因して、流通量は少なくなっています。また、古い赤間硯は現代硯よりも磨墨性能が良いと言われている事から、古硯を探し求める人も少なからずいる様です。

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3.雄勝硯 (おがつすずり)
 宮城県石巻市雄勝町付近で採掘された「雄勝石」から作られている硯で、黒色又は青黒色が特徴です。雄勝石は黒くて美しい事から「玄昌石」とも呼ばれており、その由来は諸説ありますが「玄」は黒を意味し、「昌」は美しいを意味するようです。この雄勝硯は最も生産量が多く、和硯の約90%を占めています。石質はやや軟質なものから硬質なものが有り、鋒鋩はあまり強くない(摩滅しやすい)ようですが、名硯も存在するので国産の普段使いとしては十分な性能を兼ね備えています。この硯の起源は、江戸時代初期頃、仙台藩初代藩主伊達政宗公に献上された事に始まり、二代目藩主忠宗公は雄勝硯師を藩お抱えとしたと伝えられています。仙台藩(伊達家)によってその価値が見いだされたと言っても過言ではないですね。この地域は東日本大震災で被災し、硯産業が壊滅的な打撃を受けましたが、現在は復興しているようです。雄勝石は無尽蔵に採掘できる為、硯の他にも屋根材(天然スレート)や、石皿としても多岐に亘り活路を見出しています。

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4.那智黒硯 (なちぐろすずり)
 三重県熊野市神川町で産出された「那智黒石」から作られている硯で、石の名前にも「黒」という字が入っている様に深い黒色(漆黒)が特徴で、碁石にも使われるほどの独特な色合いと光沢(磨いた場合)を持ち合わせています。また、石によっては含有される物質から、端渓のような石紋様(金線、石眼等)も稀に現れる様です。見た目には変化が有って良いのですが、その部位は石質が異なるので墨道(堂)にあると発墨に影響を与える為、上手くずらして制作しているようです。那智黒石自体が硬くて緻密な石質(中国の歙州硯に似ている?)なので、発墨はまずまずとされています。全体の形状としては縁や側面等に自然の状態を残したもの(野面)があり、その場合は表面に白っぽいものや緑または赤茶色の成分が付着しています。とはいえ、磨かれているので光沢があって綺麗で、趣があります。自然な部分を生かしたものとしては全体的に富士山の様な形(三角形?)のものをよく見かけます。

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この他にも国産硯としては、宮崎県の紅渓硯、長野県の竜渓硯など沢山あります。硯といえば唐硯(中国硯)の「端渓硯」という方が多いかと思いますし、教本等にも国産硯は良いものはあるが性能としては唐硯には及ばないと書かれているものが多いのが事実です。しかし、国産硯も性能としては負けてはいませんし、日本の墨には日本の硯が合うとも言われます (要は組み合わせが重要) 。また、数種類の硯について紹介しましたが、それぞれに特色があるので、実用としても鑑賞用としても欲しい一品であることは間違いありません。

【4. 硯の選び方】
 これだけ沢山の硯が有ると、どれが自分にとって一番良いものなのか、何を買ったら良いのか迷ってしまいますね。使おうとしている人の用途によって持つべき硯は違ってきますので、硯を選ぶポイントを説明していきたいと思います。
是非、参考にしてみて下さい。
ポイント1.【用途】
 簡単に言うと「誰が?どこで?何に使うのか?」という事です。
 1)誰が使うのか?
  ①大 人:ある程度高価なもの(鑑賞もできるもの)も良いと思います。
   ※大人とは、取り扱いや物の価値が分かる程度での定義です。
  ②子 供:比較的安価なものが良いと思います。
 2)どこで使うのか?
  ①自 宅:ある程度重いものが良いと思います。彫刻付きも良いですね。
   ※磨墨には硯が安定 する(グラグラしない)程度の重量が必要です。
  ②外出先:持ち運ぶ(学校等)ので、軽いものがベストですね。
   ※軽量硯の場合は滑り止めマットも併せて使用すると良いです。
 3)何に使う(何を書く)のか?
  ①漢 字:石質硬め、鋒鋩が粗い方で強く、墨が良く下りるもの。
  ②か な:石質柔らかめ、鋒鋩が細かく、墨が良く下りるもの。
上記1)~3)の他に、自分の好みであるものを使うと良いと思います。
大人、自宅、漢字の場合は「歙州硯 、羅紋硯、雨畑硯」
・大人、自宅、かなの場合は「端渓硯(新端渓硯)、雄勝硯、赤間硯」
・大人、外出先、漢字並びにかなの場合は「羅紋硯、軽量硯」
・子供、自宅、漢字並びにかなの場合は「羅紋硯」
子供、外出先、漢字並びにかなの場合は「軽量硯」
といったところで、子供の場合は成長に合わせ買い替えて行けば良いでしょう。

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ポイント2.【サイズ】
小さいもの(小筆用)から大きいもの(太筆用)まで多様化していますので、 サイズも用途に合わせて選びたいですね。しかし、 何を買ったら良いのか分からないという方に、私の経験から選ぶに当たって無難なサイズを書いておきます。
唐硯と和硯では表記が違う為、ここでは和硯サイズ(寸法)で書きます。
四五平(縦135㎜×横75㎜)~五三寸(縦150㎜×横90㎜)、唐硯では5吋(インチ)~7吋程度に当たります。※1吋は25.4㎜、吋は四角形の対角線を指します。
このサイズは小筆には大きいかも知れませんが、太筆にも対応できて大抵の固形墨で磨墨を不自由なく行える程よい大きさです。彫刻のある唐硯の場合は、吋に限らず「自由なサイズ」のものが多いので良く確認しましょう。
ポイント3.【性能】
硯は「墨を磨って、溜め置く」ものです。つまり「磨墨性能」と「保水性能」が重要な事は先にも書いた通りです。その簡単な見極め方についてお話します。
①磨墨性能
 墨道(堂)にある鋒鋩の有無や緻密さが影響します。目視のみでは確実に測れませんが、光を当てた時の反射によってだいたいの目安にできます。キラキラした反射が多く緻密に有って、全体に平均して見えるものが良く、指で触ったときにザラザラしている(シャッシャッという音がする)ものが良いと思います。
※ザラザラしていなくても墨が良く下りるものもあります。
※鋒鋩については前編でも説明しています。
②保水性能
 硯の池(海)が該当しますが、硯面のどこでも良いので息を長めに吹きかけて見ます。吐息に含まれる水分が硯に付着しますので、乾くまでの時間が長ければ長いほど保水性能に優れているという目安になります。その時の環境(温度と湿度)によっても変化しますのであくまで目安となります。

これらのポイントについて、ご自身でお持ちの硯に対して行うのは問題ありませんが、実店舗の商品に対して行う場合は「断って」からの方が良いと思います。また、試し磨りができるところも有ると思いますので、色々と聞いて確認してみるのも良いと思います。
続編では、【使い方】と【保管および手入れの仕方】について書いていきます。

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このブログを書いているおこげです。
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仕事に子育てに日々打ちのめされながらも奮闘しています。
書道を趣味として嗜み、かれこれ20年近く経ちます。その他、弓道、古武術、お茶(かじり程度)も嗜みます。
和のものが大好きで、たまに神社・仏閣も巡ります。
ブログを綴りながら、自分自身の書道の腕もレベルUPできるように頑張っていきますので、宜しくお願いします。
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